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だからそこは矛盾は矛盾として見極めることが大切じゃないでしょうか。鯨の位牌とか、鯨の墓だとか、点々と日本にありますでしょう。そういうのにやはり影響しているのではないかと思いますが、どうですか。
中園…そうですね。例えば益冨組の場合でも、最後に鯨に止めを刺す場面で、三回念仏を唱えたということを書いていますね。そういう気持は、やはり苦労して捕獲し、それで自分たちが生かされていくのだという感謝の気持、それともう一つは当然供養の気持があったのだろうと思いますね。
それに捕獲する側にも死亡者が出ています。鯨の上によじ登った時に、他の船から投げられた剣に突き刺されて死んだり、皮を巻上げるロクロの網が切れて皮肉に叩き付けられて死んでしまった人もいます。生月には、広島県の田島から出稼ぎで来ていた網漁師が亡くなったので、墓を作ってとむらったところがあります。

 

◎日本人の殺生の感覚◎

 

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僧侶を呼んで鯨供養をする[『小川島鯨鯢合戦』文部省資料館蔵]

 

谷川…外国人の鯨に対する感覚と、日本人の場合とどういうように違うのでしょうか。向こうは具体的にどういうように考えているのでしょうか。
中園…外国では、鯨について生態学的に研究なさっている方々は鯨をほとんど友達のようにあつかっている。しかし、過去の鯨捕りの感情はまた違いますね。例えばメルヴィルの『白鯨』を読んでいると、鯨は、キリスト教の考え方の中で、人間が支配する世界の動物とは違うように書かれている。例えば聖書の中では、リバイヤサンという怪物として鯨を扱っている。しかし逆に、それだけ神秘的な存在としても扱っているところがあるのです。また鯨の肉を食べないと言われていますが、『白鯨』のピークオード号の乗組員の中には鯨の肉を実際に焼いて食べている人の話も出てくるんです。その中では非常にこれは美味しいのだということを書いたりしているんですが、それは反面非常に奇異なことと

 

 

 

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